第1章 文教政策

 著作物利用実践とその指導(並びに研修)についての学習指導要領等の検討に入る前に、文部科学省と都道府県教育委員会等との関係(第1章)や学習指導要領の位置付け(第2章)について、要点を整理することとします。
 なお、本ウェブサイト(以下「本書」といいます。)で引用・紹介する文部科学省の文書は、読者が後に本書中の文章の所在を確認しやすくするため、できうる限り要約等せずに、原文のまま(レイアウトや抜粋などを除き)の使用といたしております。

文部科学省と地方教育委員会の関係の基本的な規定
 地方教育行政の組織及び運営に関する法律は、第48条第1項において、「地方自治法第245条の4第1項の規定によるほか、文部科学大臣は都道府県又は市町村に対し、都道府県委員会は市町村に対し、都道府県又は市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言又は援助を行うことができる。」と定めています(アンダーラインは筆者が加筆)。

 文部科学大臣は都道府県又は市町村に対し、必要な指導、助言又は援助を行うことができ、また、都道府県教育委員会は市町村に対し、必要な指導、助言又は援助を行うことができるということになります。この「指導、助言又は援助」に着目してみましょう。
指導、助言又は援助
 行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第6号の定義規定を読むと、「六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。」とあります(アンダーラインは筆者が加筆)。

 すなわち、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第48条第1項の「指導、助言又は援助」は、処分に該当しない行政行為であるということが分かります。次に、「処分」の定義は、「二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。」(行政手続法第2条第2号)となっています。
公権力の行使
 公権力の行使に当たる行政行為と公権力の行使に当たらない行為ということを、塩野宏は、「規制行政と給付行政に対応するものとして、権力行政、非権力行政という用語がある。(中略)より技術的に、権力的手法を用いる行政と非権力的な手法を用いる行政という意味で用いられる場合がある。(以下略)」(塩野宏『行政法Ⅰ[第五版補訂版]行政法総論』有斐閣,2013,p.9)としています。
教育基本法が定める教育行政の性格
 非権力的な「指導、助言又は援助」という行為は、教育基本法第16条第1項「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」という規定からも、その精神をうかがうことができます(アンダーラインは筆者が加筆)。