第10章 むすび

 本書では、読者諸兄の著作物等の信頼性を高めるためのいくつかを、学習指導要領とその解説を中心に述べてまいりました。第10章は、「第7章 「引用」及び「出所の明示」(出典)の意義」から、その要点をまとめ、本書の結びといたします。

 

「引用」及び「出所の明示」(出典)の意義のまとめ
〇「書物や典拠などのタイトル,著作者,発行年など,読み手が引用元に立ち返ってその内容を確認できるよう出典を示すことは,著作権を尊重し,保護するために必要である。」

(小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編 第3章 各学年の内容 第2節 第3学年及び第4学年の内容 1 〔知識及び技能〕(2) 情報の扱い方に関する事項 〇情報の整理(p.86-87))

〇「「出典の明示」は,その媒体に応じて,書名,著者名,発行年や掲載日,出版社,ウェブサイトの名称やアドレスなどを示すことにより,著作権に留意するとともに,情報の受け手が出典を知ることができるようにすることである。」
(中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編 第3章 各学年の内容 第1節 第1学年の内容 1 〔知識及び技能〕 (2) 情報の扱い方に関する事項 〇情報の整理 (p.47-48))

〇「他者の作成した情報を参考にしたり引用したりする。この場合,情報の作成者の権利を尊重し,引用した情報であることが分かるように転載し,出典を明記する。
(中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い  第2節 内容の取扱いについての配慮事項(p.53))

〇「情報の中には所定の手順を踏んで初めて引用を許されるものがある。」
(中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い  第2節 内容の取扱いについての配慮事項(p.53))

〇「引用とは,書籍や論文の一節や文,語句などをそのまま抜き出すことをいう。出典とは,引用元の書籍などの典拠のことである。具体的には,書名(タイトル),編著者名,出版年などを指す。ウェブサイトを閲覧した場合には,アドレスや閲覧日を示すことが求められる。これらは,著作権に留意するとともに,情報の受け手が引用部分について,引用元に遡って内容を確認できるようにするためのものである。」
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 第2章 国語科の各科目 第1節 現代の国語 3 内容 〔知識及び技能〕(2) 情報の扱い方に関する事項 〇情報の整理(p.81))

「引用することによって自らの主張を補強し説得力を高めることができる。引用の必要性についても理解を深める。」
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 第2章 国語科の各科目 第1節 現代の国語 3 内容 〔知識及び技能〕(2) 情報の扱い方に関する事項 〇情報の整理(p.81))

〇「引用の仕方や出典の示し方を誤ると,自らの主張の妥当性や信頼性を失う危険がある。」
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 第2章 国語科の各科目 第1節 現代の国語 3 内容 〔知識及び技能〕(2) 情報の扱い方に関する事項 〇情報の整理(p.81))

〇「引用には,その情報を根拠として示すことによって自分の意見や考えを補強して説得力を高めたり,論点を提示したりする役割などがある。引用した部分と自分の意見や考えとを明確に書き分けること,資料には必ず出典を明記することなど,論述する際の基本的なルールについて留意しなければならない。」
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 第2章 国語科の各科目 第1節 現代の国語 3 内容 〔知識及び技能〕(2) 情報の扱い方に関する事項 〇情報の整理(p.96-97))

※ 文章表現は、筆者が一部加筆修正。

独立行政法人日本学術振興会が示す「出所の明示」の捉え方のまとめ
〇「他人の研究成果を利用するためには、出典先を明示し、読者がその出典先をあたれるようにしなければならない。出典を示すことなく、他人の研究成果を利用することは盗用にあたる。」
(日本学術振興会『科学の健全な発展のために』日本学術振興会,丸善出版,2015,p.50.)

〇「出典を示すにあたっては、どの部分が著者によるもので、どの部分が他の科学者によるものか、明確に示さなければならない。」
(日本学術振興会『科学の健全な発展のために』日本学術振興会,丸善出版,2015,p.50.)

〇「単に出典先を記載するだけでは不十分な場合もある。例えば、Aが他の著者Bの文章をそのまま使って、その出典だけを注記するにとどめたとすると、その内容についてのBのクレジット(著作者の権利(筆者注))は確保されるが、その文章そのものの作者がAなのかBなのかは分からない。他の科学者の文章の一部をそのまま使う場合には、引用符を使ったり、段落を下げたりしてから、出典を明示し、文章自体もBのものであることを分かるようにしなければならない。」
(日本学術振興会『科学の健全な発展のために』日本学術振興会,丸善出版,2015,p.50.)

※ 文章表現は、筆者が一部加筆修正。
むすび
 「引用」及び「出所の明示」(出典)の意義は、著作物の読み手側の視点と著作物の執筆者側の視点に分けて考えることができます。

 著作物の読み手側としては、
□書物や典拠などのタイトル,著作者,発行年など,読み手が引用元に立ち返ってその内容を確認できるよう出典を示してもらいたい。
(小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編 (p.86-87)を加筆編集。)
 そのため、引用元に遡って内容を確認できるように、
□書名(タイトル),著者名、編者名,出版社名,出版年,あるいは,論文名,ファーストオーサー(筆頭著作者名),学術雑誌名,出版者,出版年,引用したページ,ウェブサイトを閲覧した場合には,アドレス,閲覧日(学習指導要領及び同解説では、「アドレスや閲覧日」としていますが、アドレス(URL)と閲覧日はセットで記述します。なぜなら、URLは、頻繁に変更されることがあるからです。)を明記してほしい。
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 (p.81)を加筆解説。)

著作物の執筆者側としては、
●引用することによって自らの主張を補強し説得力を高めることができる。
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 (p.81)を加筆編集。)
●引用の仕方や出典の示し方を誤ると,自らの主張の妥当性や信頼性を失う危険がある。
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 (p.81)を加筆編集。)
●引用には,その情報を根拠として示すことによって自分の意見や考えを補強して説得力を高めたり,論点を提示したりする役割などがある。
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 (p.96-97)を加筆編集。)
 このように、「引用」及び「出所の明示」(出典)は、読み手側、執筆者側双方に大きなメリットがありますので、日常の勉強、研究、仕事などでも、文書を執筆する際に、ちょっとでもこのことを思い出してみてください。

 最後に、「声明 科学者の行動規範-改訂版-」(2013年1月25日 日本学術会議)について触れ、本書の結びとさせていただきます。

平成18 年(2006 年)10 月3日制定
平成25 年(2013 年)1月25 日改訂
科学者の行動規範
日本学術会議

要旨
1 作成の背景
「 日本学術会議においては、科学者が、社会の信頼と負託を得て、主体的かつ自律的に科学研究を進め、科学の健全な発達を促すため、平成18 年(2006 年)10 月3日に、すべての学術分野に共通する基本的な規範である声明「科学者の行動規範について」を決定、公表した。同声明については、大学等の研究機関に周知し、各機関はこれを受け、自律的に対応を行ってきたところである。
 その後、データのねつ造や論文盗用といった研究活動における不正行為の事案が発生したことや、東日本大震災を契機として科学者の責任の問題がクローズアップされたこと、いわゆるデュアルユース問題について議論が行われたことから、今般、同声明の改訂を行うこととした。」

(前文)
(略)
「 平成23 年3 月11 日に発生した東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故は、科学者が真に社会からの信頼と負託に応えてきたかについて反省を迫ると共に、被災地域の復興と日本の再生に向けて科学者が総力をあげて取り組むべき課題を提示した。」
(略)

「Ⅱ.公正な研究
(研究活動)
7 科学者は、自らの研究の立案・計画・申請・実施・報告などの過程において、本規範の趣旨に沿って誠実に行動する。科学者は研究成果を論文などで公表することで、各自が果たした役割に応じて功績の認知を得るとともに責任を負わなければならない。研究・調査データの記録保存や厳正な取扱いを徹底し、ねつ造、改ざん、盗用などの不正行為を為さず、また加担しない。」
(以下略)

 残念ながら、「声明 科学者の行動規範-改訂版-」(2013年1月25日 日本学術会議)が出された1年後、ある学術論文がNature誌(2014年1月30日号)に掲載されたことにより、STAP細胞事件に発展したことは記憶に新しい。それ以来、日本の研究機関の研究の信頼性は世界的に信頼を失い、現在もそれは続いています。日本では技術開発分野でも大手メーカーなどによるデータ捏造などが今日も発覚しているところです。
 著作物を利用するということについては、学校教育ではこれまで特別の指導はなされませんでした。著作物を利用するということは、その著作物を執筆された人がいるということです。そのことに気付かず、または忘れ、著作者を軽んじてあたかも自分が書いたかのように披瀝することは、ねつ造であり盗用となりかねない行為です。このように、学校教育の場であまり意識してこなかったものですから、高等教育機関で勉強し、研究者となっても研究不正や著作権侵害事案が後を絶たない現状があります。本書が、著作者の権利と著作の信頼性を高めるということについて、考えるよすがとなれば幸いです。