第3章 先行調査研究とその限界

 文化審議会著作権分科会は、2002(平成14)年度から2003(平成15)年度まで、著作権教育分科会を置いていました(2002(平成14)年5月7日文化審議会著作権分科会決定)。また、2003(平成15)年から「「著作権教育研究協力校」における著作権教育の具体的指導方法の研究開発について」実施していました(2003(平成15)年8月22日文化審議会著作権分科会著作権教育小委員会(第3回)資料5)。この「著作権教育研究協力校」は、2003(平成15)年度から2010(平成22)年度まで続きました。第3章は、著作権教育研究協力校と学習指導要領との関係について整理しておきます。

著作権教育小委員会が置かれた時期
 著作権教育小委員会は2002(平成14)年5月7日に文化審議会著作権分科会に置かれましたが、その数年前に遡ると、文部省初等中等教育局では、小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の改訂が行われていました。学習指導要領それぞれの告示日、施行日は、次のとおりです。
小学校学習指導要領(1998(平成10)年12月14日文部省告示第175号)(2002(平成14)年4月1日施行)
中学校学習指導要領(1998(平成10)年12月14日文部省告示第176号)(2002(平成14)年4月1日施行)
高等学校学習指導要領(1999(平成11)年3月29日文部省告示第58号)(2003(平成15)年4月1日施行)
 このように、著作権教育小委員会の設置は、学習指導要領の告示も背景にあったと推察されます。
 なお、この推察の裏付けとして、2002(平成14)年6月24日文化審議会著作権分科会著作権教育小委員会(第1回)資料7を紹介します。
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資料7 新学習指導要領(抜粋)(平成14年4月から施行)

《中学校学習指導要領(抄)
第2章 各教科
第8節(技術・家庭)
2 内容
B 情報とコンピュータ
(1) 生活や産業の中で情報手段の果たしている役割について,次の事項を指導する。
 イ 情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り,情報モラルの必要性について考えること。
3 内容の取扱い
(2) 内容の「B情報とコンピュータ」については,次のとおり取り扱うものとする。
 ア (1)のイについては,インターネット等の例を通して,個人情報や著作権の保護及び発信した情報に対する責任について扱うこと。

《高等学校学習指導要領(抄)》
【第2章 普通教育に関する各教科】
第10節 情報
第1 情報A
2 内容
(2)情報の収集・発信と情報機器の活用
  ウ 情報の収集・発信における問題点
    情報通信ネットワークやデータベースなどを利用した情報の収集・発信の際に起こり得る具体的な問題及びそれを解決したり回避したりする方法の理解を通して,情報社会で必要とされる心構えについて考えさせる。
3 内容の取扱い
(2) 内容の(2)については,情報通信ネットワークなどを活用した実習を中心に扱うようにする。ウについては,情報の伝達手段の信頼性,情報の信憑性,情報発信に当たっての個人の責任,プライバシーや著作権への配慮などを扱うものとする。

第3 情報C
2 内 容
(3) 情報の収集・発信と個人の責任
  ア 情報の公開・保護と個人の責任
   多くの情報が公開され流通している実態と情報の保護の必要性及び情報の収集・発信に伴って発生する問題と個人の責任について理解させる。
3 内容の取扱い
(3) 内容の(3)のアの情報の保護の必要性については,プライバシーや著作権などの観点から扱い,情報の収集・発信に伴って発生する問題については,誤った情報や偏った情報が人間の判断に及ぼす影響,不適切な情報への対処法などの観点から扱うようにする。
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(https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/015/021001.htm)
 次に、「「著作権教育研究協力校」における著作権教育の具体的指導方法の研究開発について」の文書を掲載します。
「著作権教育研究協力校」における著作権教育の具体的指導方法の研究開発について
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「著作権教育研究協力校」における著作権教育の具体的指導方法の研究開発について
(2003(平成15)年8月22日文化審議会著作権分科会著作権教育小委員会(第3回)資料5)
1.趣旨
 小学校,中学校及び高等学校における著作権に関する教育について,研究協力校(中心となる学校が他校と連携協力する場合を含む)で具体的な指導方法を検討していただき,事例を通じた研究開発の成果内容を広く公開して,実際の教育現場にも知らせていくこととする。

2.研究主題
 平成15年度においては,以下の研究主題を踏まえた内容とする。
(1) 基本的なねらい
誰でも著作権を知識や意識として捉えられる,学校教育における著作権教育の具体的な指導方法を確立する。

(2) 共通的な留意点
 著作権に関する知識や意識を身に付けるための具体的な指導を,文化庁が制作した教材などを利用して,どのように工夫して行うか次のような点に留意すること。
1 著作権に関する教育に関して,発達段階に配慮する。
2 著作権は「ルール」であるが,児童生徒が感覚として身に付けられるように留意する。
3 著作権を単に知識として教えるだけでなく,児童生徒に考えさせるような配慮を伴う指導方法とする。
4 指導方法の研究開発にあっては,文化庁で制作したマンガのパンフレット(中学生向け)や楽しみながら学べる学習ソフト(小学生向け)の活用を考慮に入れる。
5 研究開発の成果は,報告書としてとりまとめ,文化庁ホームページにおいて紹介する。

3.研究期間
平成15年度中とする。

4.研究教科
 研究を委嘱する教科としては,特に限定は設けないが,特別活動や総合的な学習の時間等の活用も考慮するものとする。

5.研究協力校の運営
(1)研究協力校は、文化庁と密接な連絡をとり,その指導・助言の下に研究を行うものとする。
(2)研究協力校は,校内における研究体制を整備し,計画的,継続的に研究開発を進めるものとする。
(3) 研究協力校は,対象期間終了後,30日以内に,研究成果を概要としてまとめた報告書を,文化庁に提出するものとする。

6.経費
 文化庁は,本研究協力校による研究に要する経費として50万円を上限に支払うこととする。ただし、連絡調整のための全体打合会を開く場合は別途必要経費を文化庁が用意する。
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 さて、既述のように、著作権教育研究協力校は、2003(平成15)年度から2010(平成22)年度までのものです。この間に、学習指導要領は2回改訂されています。
小学校学習指導要領(1998(平成10)年12月14日文部省告示第175号)(再掲)
中学校学習指導要領(1998(平成10)年12月14日文部省告示第176号)(再掲)
高等学校学習指導要領(1999(平成11)年3月29日文部省告示第58号)(再掲)
 そして、
小学校学習指導要領(2008(平成20)年3月28日文部科学省告示第27号)(2011(平成23)年4月1日施行)
中学校学習指導要領(2008(平成20)年3月28日文部科学省告示第28号)(2012(平成24)年4月1日施行)
高等学校学習指導要領(2009(平成21)年3月9日文部科学省告示第34号)(2013(平成25)年4月1日施行)
 であり、本書執筆時点の2024(令和6)年では、既に次の改訂がなされ、これがまれにみる大改訂となりました。
小学校学習指導要領(2017(平成29)年3月31日文部科学省告示第63号)(2020(令和2)年4月1日施行)
中学校学習指導要領(2017(平成29)年3月31日文部科学省告示第64号)(2021(令和3)年4月1日施行)
高等学校学習指導要領(2018(平成30)年3月30日文部科学省告示第68号)(2022(令和4)年4月1日施行)
 したがって、第3章において検討する著作権教育研究協力校と学習指導要領との関係については、2008(平成20)年度から2010(平成22)年度の著作権教育研究協力校の取組に絞り込むことにします。
著作権教育研究協力校が実施した教育実践研究の教育課程上の位置付け
各研究協力校が実施した教科等
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2008(平成20)年度
千葉県松戸市立馬橋小学校    総合的な学習の時間 国語
大阪教育大学附属平野中学校   総合的な学習の時間
東海大学付属仰星高等学校中等部 総合的な学習の時間
東海大学付属第五高等学校    特別授業
世田谷区立京西小学校      実態調査
神奈川大学附属中高等学校    総合的な学習の時間 技術・家庭 情報C
横浜市立左近山中学校      総合的な学習の時間 特別活動

2009(平成21)年度
千葉大学附属中学校       音楽 道徳
千葉県松戸市立馬橋小学校    総合的な学習の時間 国語 社会
山口県立下関工業高等学校    全校集会 学年集会 LHR SHR
横浜市左近山中学校        総合的な学習の時間 技術・家庭(情報モラル)

2010(平成22)年度
千葉大学附属中学校       技術・家庭
千葉県松戸市立馬橋小学校   総合的な学習の時間 国語 社会
山口県立下関工業高等学校   全校集会 学年集会 LHR SHR
横浜市立左近山中学校     総合的な学習の時間 特別活動
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 このように、「著作権に関する教育の具体的な指導方法を検討する」という著作権教育研究協力校の趣旨としては、総合的な学習の時間や特別授業での実施にとどまったことになります(音楽、道徳で実施した研究校がありますが、それぞれ各1時間でした。)。学校学習指導要領を司っているのは文部省(文部科学省)初等中等教育局であるので、これは、外局である文化庁としての限界であったのかもしれません。